この記事の要点
従業員12名・中国地域の鉄道貨物会社 ─ 運行記録のデジタル化で安全管理80%改善
中国地域の鉄道貨物会社が、運行記録の紙台帳を写真・音声入力・自動分類に置き換えた事例。月20時間の集計作業を3時間に短縮し、事故予兆の発見数も3倍に改善。
中国地域の鉄道貨物会社(従業員12名、専用線運行を主業とする中小事業者)の事例
課題:紙台帳で運行を管理していたら、月20時間が消えていた
中国地域で工場の専用線(工場と幹線を結ぶ短距離の貨物線)を運行する会社からのご相談でした。
運転士4名・整備士3名・運行管理者2名・事務員2名・社長1名の計12名。
小規模な専用線オペレーターです。
社長から最初に伺ったのは、こんな悩みでした。
「運行記録を、毎日紙の台帳に書いてもらってます。
1日の終わりに事務員が転記して、月末に集計するんですが、その作業に毎月20時間かかってまして」
専用線の運行は、安全のために細かい記録が法令で求められます。
- 運行時刻・速度
- 連結作業の開始/終了
- 異音・振動の有無
- 信号・分岐の動作確認
- ヒヤリハットの有無
これを毎運行ごとに紙に書き、夕方に事務員が Excel に転記する流れでした。
紙→Excelの転記でミスが発生しやすく、月末の集計が合わずに何度も差し戻し、というのも頻発。
整理すると、こんな状態。
- 運行ごとの記入時間:1運行あたり10-15分
- 転記の事務作業:月20時間
- 月末集計のチェック差し戻し:毎月3-5回
- 運行管理者が「事故予兆」を見つけるのに、紙台帳をめくる時間が必要
- 結果として、予兆発見が事後対応になりがち
社長は、「事故を起こしてないだけで、起こりかけている瞬間は見えてなかった」とおっしゃっていました。
施策:写真+音声+自動分類の3ステップ
支援に入って、こう整理しました。
ステップ1:「紙の項目」を全部見直す
まず、現状の運行台帳に書かれている20項目を全部書き出して、「法令で必須」「社内ルールで必要」「実は誰も使っていない」の3つに仕分けしました。
結果、本当に必要だったのは12項目。残り8項目は形式的に書かれていただけ、と判明。
ステップ2:運転士のスマホで「写真+音声」入力
運転士に貸与しているスマホで、入力する画面(Googleフォーム)を1タップで開けるようにしました。
特に重要視したのは2点。
- 写真添付:信号機・分岐器・連結部などを写真で残す
- 音声入力:異音・振動の所感を、話すだけで記録できる
運転士の B さんが導入時にこう話してくれました。
「最初は『面倒くさいから紙でいい』と言ったんですけど、実際使ってみたら音声で吹き込めるのが楽で。
紙のときは『書くことを思い出しながら書く』感じだったのが、いまは見たまま話すだけ。
気がついたら入力時間が3分程度になってます」
ステップ3:AIに自動分類と異常検知をさせる
入力された運行記録は、情報をためておく場所(スプレッドシート)に自動でたまります。
そこに AI(ChatGPT+スプレッドシートを自動で動かす仕組み=GAS)を組み合わせて、こんな処理を毎日自動で回しています。
- 「異音」「振動」「違和感」というキーワードを含む記録に自動でフラグ
- 過去30日と比較して、特定区間で同種の指摘が増えていないか分析
- 分析結果を運行管理者に毎朝レポート送信
つまり、人がめくらないと見えなかった「予兆」が、毎朝レポートで上がってくる状態に変わりました。
成果:事故予兆の発見が3倍に
導入から8ヶ月での変化です。
| 項目 | Before | After | 変化 |
|---|---|---|---|
| 運行ごとの記入時間 | 10-15分 | 3-4分 | -70% |
| 月の事務集計時間 | 20時間 | 3時間 | -85% |
| 月末集計の差し戻し | 月3-5回 | 月0-1回 | -80% |
| 事故予兆の発見件数 | 月平均2件 | 月平均6件 | 3倍 |
| 重大インシデント | 過去2年で1件 | 8ヶ月連続ゼロ | 継続中 |
事務員の C さんが、こう話してくれました。
「月末になると残業20時間が当たり前だったのが、もう定時で帰れます。
運転士さんからの記録が直接データになるので、転記ミスを探す時間がそもそもなくなりました」
運行管理者の D さんは、
「毎朝、AI が『先週この区間で異音の指摘が3件出ています』と教えてくれるようになりました。
紙のときは、台帳をめくって気づくのは事故が起きてから。いまは予兆の段階で整備に回せるので、予防保全がやっと回り始めました」
と話してくれました。
なぜ効果が出たか
1. 「使っていない項目」を捨てた
20項目→12項目に減らしました。仕組みを作る前に、紙のフォーマットそのものを見直すのが先決でした。
2. 写真と音声を中心にした
キーボード入力ではなく、運転士が現場で「見たまま・聞いたまま」を残せる仕組みに。これが入力時間70%短縮の核心です。
3. AIに「異常検知」を任せた
人が紙をめくって気づいていた「予兆」を、AI がキーワード抽出と頻度分析で機械的に発見する仕組みに変えました。人は判断と処置に集中するのが、ちゃんと回るパターンです。
この3つは、業種を変えても共通する原則です。「記録の負担を減らす」「データを一箇所に集める」「分析は AI に任せて人が判断する」この流れを作れれば、安全管理だけでなく品質管理・設備保全・顧客管理など、あらゆる現場の記録業務に応用できます。
横展開:鉄道貨物以外でも使える
この仕組み、運行・点検系の業務には全部応用できます。
- トラック運送業:日報・点呼記録のデジタル化
- タクシー・バス:運行記録と乗務員の所感
- 建設業:重機の点検記録と稼働ログ
- 製造業:設備の日次点検と異音報告
- 設備保全業:定期巡回の点検記録
- 倉庫業:フォークリフトの始業点検
運転員・作業員のスマホで「写真+音声」が出せれば、業界を問わず同じ構造で展開できます。
まとめ
紙台帳を捨てて、写真と音声入力に置き換えただけ。
それで事務員の20時間が3時間になり、事故予兆の発見が3倍になりました。
書類を作る時間を減らすことより、書類のデータが「予兆発見」に変わったことのほうが、本質的な成果です。
弊社では、運行・点検記録のデジタル化と AI 活用を、入力する画面(Googleフォーム)+情報をためておく場所(スプレッドシート)+AIの組み合わせで設計します。
大規模なシステムは要りません。現場の人が「楽になった」と感じる仕組みから始めるのが先です。
気になる業務があれば、お気軽にお声がけください。
弊社では中小企業のAI活用・システム開発の伴走支援を行っています。
この事例で確認した実務ポイント
対象業種: 物流業
支援の観点: 業務フローの棚卸し、既存ツールの整理、現場で使い続けられる運用設計、導入後の定着確認。
同じ課題に向く企業: IT担当者が不在、紙や表計算での管理が限界、AIや自動化を試したいが社内だけでは進めにくい企業。