医療・介護・福祉業 × 福祉用具事業所 × 相談員の事例
東北地域の小規模事業所で、紙ファイル中心の相談記録と職員間共有を整えたケースです。
課題:利用者情報を探すだけで1件10分かかっていた
福祉用具事業所の仕事は、単に用具を届けるだけではありません。
利用者さんの身体状況、家族の希望、住宅環境、ケアマネジャーとのやり取り、過去の相談内容。
そうした情報を踏まえて、必要な提案や調整を行います。
今回の事業所では、利用者情報が紙ファイル中心で管理されていました。
過去の相談記録を探すだけで1件平均10分。
ケアプランや支援計画の作成には1件8時間ほどかかることもありました。
介護記録の作成には1日2時間ほど使い、職員間の情報共有ミスも月3〜5件ほど起きていました。
相談員の方は、こう話していました。
「利用者さんのことをちゃんと覚えておきたいのに、記録を探す時間が多すぎるんです」
別の職員の方も、同じ悩みを持っていました。
「家族へ前回何を伝えたか、ケアマネさんにどこまで共有したか、毎回確認が必要でした」
小規模事業所ほど、1人が抱える役割は広くなります。
だからこそ、情報を探す時間がそのまま現場の余裕を削っていました。
施策:記録、共有、確認を同じ流れにした
今回の支援では、最初から大きな専用システムを入れるのではなく、今ある業務を整理するところから始めました。
ステップ1:相談記録を入力する画面にまとめる
まず、Googleフォームで相談記録の入力画面を作りました。
利用者名、相談日、相談内容、用具の種類、次回確認事項、家族への連絡内容、関係機関への共有状況。
これらを同じ形式で入力できるようにしました。
自由記述だけにすると後で探しにくくなるため、用具カテゴリや対応状況は選択式にしました。
一方で、利用者さんごとの細かい事情は文章で残せるようにしました。
ステップ2:スプレッドシートを自動で動かして一覧化
入力された内容は、スプレッドシートに自動でたまるようにしました。
未対応の相談。
家族連絡が必要なもの。
ケアマネジャーへの共有待ち。
次回訪問で確認する項目。
こうした状態が一目で分かるようにしました。
専門的にはGASを使っていますが、現場には「入力した内容が自動で整理される仕組み」と説明しました。
操作する人が仕組みの名前を覚える必要はありません。
毎日使えることの方が大事です。
ステップ3:AIで記録の下書きと確認メモを作る
ChatGPTは、記録作成の下書きに使いました。
相談内容を読みやすく整える。
家族向けに伝える文章のたたき台を作る。
次回確認すべき点を箇条書きにする。
支援計画の文章を作る前のメモを整理する。
AIに判断を任せるのではなく、職員が確認しやすい下書きを作る役割です。
個人情報を扱うため、入力する内容の範囲と確認ルールも決めました。
利用者さんの大切な情報を扱う業務では、便利さより先に安全な運用が必要です。
成果:記録と共有の時間が大きく減り、確認漏れも減った
導入後、最も効果が出たのは情報共有の時間でした。
| 項目 | Before | After |
|---|---|---|
| 体調・相談記録 | 1件8分 | 1件3分 |
| 情報共有時間 | 週12時間 | 週4時間 |
| 支援計画作成 | 週10時間 | 週4時間 |
| 関係機関連絡 | 週8時間 | 週3時間 |
| ヒヤリハット件数 | 月3件 | 月2件 |
数字だけで見ると、週8時間以上の削減です。
ただ、現場で一番喜ばれたのは別の点でした。
「前回どこまで話したかがすぐ分かるので、利用者さんとの会話に集中できます」
この声が印象的でした。
作業時間が減ったことも大事です。
でも福祉の現場では、空いた時間を利用者さんや家族との対話に戻せることが大きな価値になります。
なぜ効果が出たか:現場の言葉をそのまま残せる設計にしたから
介護・福祉の記録を効率化するとき、単に入力項目を増やすだけではうまくいきません。
現場には、選択肢だけでは残せない事情があります。
「今日は表情が明るかった」
「家族が少し不安そうだった」
「前回より移動が楽そうだった」
こうした記録は、あとから支援の質に効いてきます。
そのため、今回の仕組みでは、選択式で整理する部分と、文章で残す部分を分けました。
さらにAIで文章を整え、職員が確認して保存する流れにしました。
導入時に注意したこと:個人情報と確認ルールを先に決める
介護・福祉の現場では、個人情報の扱いを後回しにできません。
そのため、今回の仕組みでは、AIに入れてよい情報と入れてはいけない情報を先に決めました。
氏名や住所など、直接個人が分かる情報は必要以上にAIへ渡さない。
文章の下書きを作る時も、利用者さんを特定できる情報は伏せる。
保存前には必ず職員が確認する。
この3つを運用ルールにしました。
施設長は、最初こう話していました。
「便利になるのはありがたいですが、情報漏えいだけは絶対に避けたいです」
この不安は当然です。
だからこそ、便利さを前面に出す前に、扱う情報の範囲を決める必要があります。
また、AIが作った文章をそのまま家族へ送らないことも徹底しました。
AIはあくまで下書きです。
利用者さんの状態を見ている職員が、最後に確認して送る。
この線引きがあるから、現場も安心して使えます。
導入後の1週間で見たこと
運用開始後の1週間は、入力内容よりも「続けられるか」を見ました。
朝の忙しい時間に入力できるか。
スマホで見た時に文字が小さすぎないか。
選択肢が現場の言葉と合っているか。
確認待ちの一覧を管理者が毎日見られるか。
初期設定のまま完璧に使えることは、ほとんどありません。
現場の反応を見ながら、項目名、選択肢、通知のタイミングを少しずつ直しました。
この微調整をしたことで、記録のための記録ではなく、実際に使われる記録になりました。
他の介護・福祉事業にも応用できる
同じ考え方は、福祉用具事業所だけではありません。
居宅介護支援。
訪問介護。
デイサービス。
高齢者向け住宅。
障害福祉サービス。
どの現場でも、記録、共有、家族連絡、関係機関連絡は発生します。
まず記録の入口をそろえる。
次に共有待ちの状態を見えるようにする。
最後にAIで下書きや確認メモを作る。
この順番なら、小規模事業所でも始めやすくなります。
最初の対象は、全利用者さんの記録ではなく、連絡や確認が多いケースだけでも構いません。小さく始めて、職員が安心して使える範囲を確認しながら広げる方が定着しやすくなります。
気になる業務があれば、お気軽にお声がけください。
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