運輸業 × 経理・請求担当 × 従業員43名の公開事例
※本記事はIT導入補助金2020の公開事例をもとに、同規模の中小企業が取り入れやすい改善手順として編集部が再構成したものです。弊社の直接支援実績を示すものではありません。以下の会話表現も、公開資料にある課題を読みやすく再構成しています。
宮城県の運送会社では、売上、入金、請求をExcelと手書き伝票で管理していました。
荷物が動けば、納品や請求の情報も動きます。ところが情報の置き場所が別々だと、月末の事務担当は「伝票はそろったか」「Excelへ転記したか」「請求書に押印したか」を一つずつ確認しなければなりません。
公開資料で確認できる成果は明確です。
売上集計の処理時間を30%以上短縮。
さらに、手計算に起因する誤請求と押印の手間をなくし、過去数年の売上を一画面で比較できるようになりました。
ここで大事なのは、高度なAIを最初から入れたことではありません。
紙、Excel、印鑑に分かれていた情報を、まず一つの販売管理へ集めたことです。
課題:月末になると、同じ数字を何度も確認していた
公開資料の課題を現場会話に置き換えると、次のような状態です。
「この売上はExcelへ入っていますか」
「伝票はあります。でも入金の確認は別の表です」
「去年の同じ月と比べたいのですが、すぐ出せますか」
「紙とファイルを探すので、少し待ってください」
一つひとつは難しい仕事ではありません。
しかし、数字を探す、転記する、照合する、押印するという小さな作業が重なると、事務担当の労働時間が増えます。
特に運送業は、取引先、便、日付、金額、入金状況など、請求へつながる項目が多い業種です。どれか一つの表記が違うだけで、照合に時間がかかります。
Beforeの問題は「紙があること」だけではない
紙をPDFに変えるだけでは、集計は速くなりません。
必要なのは、売上、入金、請求を同じ取引の情報としてつなげることです。
今回の事例では、次の三つが分断していました。
- 手書き伝票にある取引の事実
- Excelに入力した売上と入金
- 紙で発行し、押印する請求書
この分断が、確認の重複と計算ミスを生んでいました。
施策:入力から請求までを一つの流れにした
公開事例では、販売管理システムを導入し、月次・年次の売上、入金管理、請求書発行までを一元化しています。
同規模の会社で再現するなら、次の順番が現実的です。
ステップ1:帳票ではなく「共通項目」を決める
最初に、伝票やExcelの見た目をそのまま再現しません。
取引先、取引日、売上額、入金予定日、入金日、請求番号など、後で探したい共通項目を決めます。
ここで項目を増やしすぎると、入力が続きません。
「経営が見たい数字」と「現場が無理なく入れられる項目」の交点から始めます。
ステップ2:過去データを一度に全部移さない
過去数年の実績比較は大きな価値です。
ただし、古い紙を最初から全件入力すると、導入前に疲弊します。
まず直近の請求、未入金、今年度の売上など、日常業務に必要な範囲を優先します。その後、比較に必要な年度を追加します。
ステップ3:請求書の形式と承認順をそろえる
システムが請求書を出しても、誰が確認し、いつ確定するかが曖昧では止まります。
担当者が下書きを作り、責任者が金額と取引条件を確認し、確定後に送付する。この順番を決めます。
電子印へ変える場合も、押印を省くだけでなく、承認履歴を残す方が重要です。
ステップ4:月次集計を経営判断へつなげる
一元化の成果は、事務時間の短縮だけではありません。
過去数年の数字を一画面で見られるようになれば、取引先別、月別、前年同月比などの変化を確認できます。
「集計を終える」から「数字を見て次を決める」へ、経理の役割が変わります。
成果:30%以上の時短に加え、誤請求と押印を解消
| 項目 | Before | After |
|---|---|---|
| 売上・入金・請求 | Excelと手書き伝票に分散 | 一つの販売管理で確認 |
| 売上集計 | 基準値100 | 70以下相当(30%以上短縮) |
| 誤請求 | 手計算による発生リスクあり | 公開資料では誤請求がなくなった |
| 押印 | 紙へ押印 | 電子印へ統一 |
| 過去実績 | 紙や別ファイルを探す | 数年分を一画面で比較 |
「請求書を早く作れるようになった」だけではありません。
確認の往復が減り、担当者は労務管理や社員教育など、別の業務のデジタル化にも取り組む自信を持てるようになったと公開資料は伝えています。
なぜ効果が出たのか
第一に、売上だけでなく、入金と請求まで同じ流れへ入れたからです。
第二に、電子化の対象を帳簿だけで終わらせず、請求書の形式と印鑑までそろえたからです。
第三に、過去実績を比較できる形で残したからです。
バラバラのExcelを一つに集めても、項目名や取引先名がそろっていなければ、経営判断には使えません。入力時点で共通の形にすることが、後のAI活用にもつながります。
たとえば将来、売上の変化をAIに説明させたい場合も、元になる数字が整理されているほど確認しやすくなります。
運送業以外にも応用できる
この考え方は、取引と請求がつながる業種へ横展開できます。
- 建設業:工事台帳、出来高、請求、入金
- 卸売業:受注、出荷、売上、請求
- 専門サービス業:案件、作業時間、請求、入金
- 保守業:訪問記録、部品、請求、契約更新
ツール名を先に決める必要はありません。
まず、同じ数字を何回書いているか、月末に何を探しているか、誰の確認を待っているかを洗い出します。
公開資料は2020年度の活用事例です。現在の補助制度、製品料金、契約条件は導入時点で改めて確認が必要です。一方、紙とExcelを一つの流れへまとめる順番は、今も変わりません。
導入後に戻らないための月次運用
システムを入れて最初の月だけ速くなっても、入力の抜けや独自Excelが増えれば元へ戻ります。
月次で確認する項目は、多くしすぎない方が続きます。
- 未入力の伝票件数
- 入金予定日を過ぎた取引件数
- 請求書を修正した理由
- 取引先名や品目名の重複
- 月次集計を確定した日
たとえば「株式会社あり」と「株式会社なし」で同じ取引先が二つに分かれていたら、翌月の集計前に統合します。担当者が自由に取引先名を追加できる運用では、表記揺れが再発しやすいため、追加時の確認者も決めます。
また、電子化したから紙をすぐ捨てるのではなく、保存義務、取引先との契約、税務上の取扱いを確認します。障害時に請求業務を続ける手順と、定期的なバックアップ、復元確認も必要です。
「一つの画面で見られる」状態を守るのは、製品ではなく日々の入力ルールです。
月末の担当者だけに任せず、現場が情報を渡す時点から抜けを減らす。そこまで設計すると、30%以上の短縮を一時的な成果で終わらせず、次の改善へつなげやすくなります。
気になる業務があれば、お気軽にお声がけください。
弊社では、中小企業の紙・口頭・Excelに分かれた情報を整理し、現場で続くシステムへ組み込む伴走支援を行っています。