従業員30名の高齢者向け住宅/情報共有を週10時間から3時間に減らした話
医療・介護・福祉業 × 高齢者向け住宅の施設長・介護職 × 従業員30名の事例

入居者の体調、食事、服薬に関する連絡、家族からの伝言。

高齢者向け住宅では、一つひとつの記録が次の勤務者の判断材料になります。この会社では、紙の記録、口頭の申し送り、個人のメモが並行しており、必要な情報を集める時間が週に約10時間かかっていました。

記録そのものにも、入居者一人あたり約10分。急な対応が重なると、まとめ書きが発生します。

そこで、職員がスマートフォンや共用パソコンから同じ項目を入力し、施設長が一覧で確認できる仕組みへ変更しました。結果として、体調記録は10分から4分、情報共有は週10時間から3時間へ短縮。事故・ヒヤリハット件数も月3件から1件へ減りました。

課題:記録はあるのに、必要な時にそろわない

導入前も、職員は記録を怠っていたわけではありません。

問題は、書く場所と見る場所が分かれていたことでした。日誌には日々の様子、別紙には体調、申し送りノートには注意事項。家族から電話があれば、受けた職員が付箋へ書くこともあります。

施設長が状況を確認するには、複数の紙を見て、勤務者へ聞き、必要なら記録を書き直す必要がありました。

現場の悩みを一言にすると、「書いてあるはずなのに、今すぐ見つからない」という状態です。

特に負担が大きかったのは、次の3場面でした。

  • 夜勤から日勤へ変わる時の申し送り
  • 家族から問い合わせがあった時の経過確認
  • 月次の振り返りで、似た出来事を探す時

一件ごとの作業は数分でも、30名の職員が交代で働くと、確認の往復が積み上がります。情報が遅れて伝われば、同じ確認を複数の職員が行うこともありました。

施策:現場の言葉を、そのまま共通項目にした

今回、最初から大きな介護システムへ置き換えたわけではありません。

まず、毎日使う記録だけを選び、入力する画面と一覧を作りました。

ステップ1:一週間分の紙と口頭連絡を並べた

最初に行ったのは、既存の記録を捨てることではなく、何がどこへ書かれているかを確認することです。

体温や食事量のように数値で残す項目。表情や会話のように文章で残す項目。転倒など、すぐ共有すべき項目。家族からの連絡のように、対応期限がある項目。

これらを四つに分けました。

同じ内容を別の紙へ書き直している箇所も見つかりました。そこは一度入力すれば一覧へ反映される形に変更します。

ステップ2:入力項目を増やしすぎなかった

入力する画面には、入居者名、日時、記録の種類、内容、緊急度、次に確認する人を用意しました。

文章を長く書かなくても済むよう、よく使う内容は選択式にします。一方、個別性が必要な様子は短い自由記入欄へ残しました。

ここで大切なのは、管理者が見たい項目を全部足さないことです。

入力が重くなれば、現場は後回しにします。試用期間中は、職員から「この項目は毎回必要か」「似た選択肢が二つないか」を聞き、使われない項目を減らしました。

ステップ3:緊急度で表示を変えた

入力された内容は、施設長と担当者が一覧で見られるようにしました。

通常の経過記録と、当日中に確認すべき内容を同じ見た目にすると、重要な連絡が埋もれます。そこで、確認期限と緊急度で並び順を変え、未確認のものだけを先に表示しました。

個人情報を扱うため、職員ごとに見られる範囲も設定しています。URLを知っていれば誰でも見られる状態にはしません。退職・異動時に権限を外す担当も決めました。

ステップ4:AIは月次の整理と下書きに限定した

記録が同じ形でたまるようになると、月次の傾向を整理しやすくなります。

AIには、似た記録をまとめ、確認が必要な項目を候補として出すところまでを任せました。ケア方針や医療上の判断をAIへ任せるのではありません。

施設長や専門職が元の記録を確認し、必要な対応を決めます。AIの文章は、あくまで読みやすくするための下書きです。

導入の進め方:一つのフロアで二週間試した

新しい入力へ一斉に切り替えると、夜勤や短時間勤務の職員が置き去りになります。

そこで、最初の一週間は一つのフロアだけで、紙と新しい入力を併用しました。入力にかかった時間、迷った項目、一覧で見つけにくかった記録を毎日メモします。

二週目は、通常記録を新しい入力へ寄せ、緊急時の連絡方法と法令上必要な原本だけを別に残しました。紙を先に廃止するのではなく、新しい方法で必要な情報が欠けないことを確認してから切り替えています。

研修も、一時間の説明会だけでは終わらせませんでした。

早番、遅番、夜勤の代表者が実際の端末で一件入力し、次の勤務者がその内容を探します。「書ける」だけでなく「次の人が見つけられる」までを練習しました。

導入担当者は、未入力、期限超過、重複記入、職員から質問が出た項目を毎週確認します。

質問が多い項目は、職員の理解不足と決めつけません。名前が分かりにくい、選択肢が似ている、スマートフォンでは押しにくいなど、画面側の問題を先に見直しました。

また、停電や通信不具合で入力できない場合に備え、最低限の紙記録と後から入力する担当も決めています。便利な時だけ動く仕組みでは、介護現場の標準にはできません。

成果:探す時間が減り、申し送りの質をそろえられた

導入後の変化は次の通りです。

項目BeforeAfter変化
入居者一人の体調記録10分4分60%短縮
情報共有・確認週10時間週3時間週7時間削減
事故・ヒヤリハット月3件月1件月2件減少

時短以上に大きかったのは、「誰に聞けばよいか」から「一覧を見れば確認できる」へ変わったことです。

申し送りでは、記憶に頼って最初から説明する時間が減りました。家族から問い合わせがあった時も、直近の記録を日付順に確認できます。

ただし、事故・ヒヤリハットの減少を仕組みだけの効果と断定することはできません。職員の声かけや日々の改善も含む結果です。数字は継続して確認し、件数が増えた時は記録方法と現場の状況を一緒に見直します。

なぜ効果が出たのか

紙をなくすことを目的にしなかった

目的は、紙をゼロにすることではなく、次の勤務者が必要な情報へ早く着くことでした。

このため、法令や運用上残す必要がある書類は維持し、日々の重複記入と探す作業から優先して減らしています。

現場が使う言葉で入力できた

外部の専門用語を持ち込まず、職員が普段使っている分類を基本にしました。入力画面を見た時に迷う時間が減り、記録のばらつきも小さくなります。

人の判断を残した

介護では、同じ記録でも入居者の状況によって意味が違います。

AIや自動集計は見落としを減らす補助に使い、支援内容の決定は専門職が行う。この境界を最初に決めたことで、現場も安心して使えました。

他の施設でも応用できる考え方

この方法は、高齢者向け住宅に限りません。

  • 訪問介護:訪問後の記録と次回の注意事項
  • 放課後等デイサービス:出席、活動、保護者連絡
  • 障害福祉:支援記録と申し送り
  • 小規模クリニック:院内連絡と書類の進み具合

共通するのは、同じ情報を何度も書き、後から探している業務です。

最初の一歩は、一週間分の紙、表計算、口頭連絡を並べること。そこから重複する一項目だけを、同じ入力画面へまとめます。

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