卸売・小売業 × 営業・顧客管理 × 従業員47名の公開事例
「担当者が休むと、そのお客様のことが分からない」
中小企業の営業現場で、よく起きる困りごとです。顧客との会話、見積の経緯、次に提案したい商品が、営業担当者の手帳や記憶の中にあります。本人は仕事を把握していても、会社としては顧客情報を使えません。
北海道札幌市で事務用品やオフィス関連サービスを扱う株式会社三城も、かつては顧客情報と営業ノウハウが担当者ごとに分かれていました。同社は従業員47名。創業から58年を迎える商社です。
同社は、営業日報、顧客情報、案件の進み具合、社内の知識を一つにまとめ、個人営業からチーム営業へ移行しました。公開資料では、関係部署の人員が7名から5名へ、移動に使う時間が年間約2,000時間削減。チーム営業に関する売上総利益は20万円から400万円へ伸びました。
単なる「営業管理ツール導入」ではありません。情報の持ち方、営業の役割、顧客との接点を順番に見直した事例です。
課題:紙の日報はあっても、会社の知識になっていなかった
同社の公開事例によると、2008年頃まで営業日報は紙でした。紙の日報には記入できる量が限られ、顧客との会話や案件の背景を十分に残せません。
回覧先も、自部署の上長と社長が中心でした。他部署の人は、別の営業担当が何を提案し、顧客が何に困っているかを知る機会が少ない状態です。
この状況では、次の問題が起きます。
- 営業担当が替わると、過去の経緯を一から聞き直す
- 他部署に似た経験があっても、見つけられない
- 見積や提案の進み具合を、会議や電話で確認する
- 顧客訪問のたびに、担当者が長い距離を移動する
- 営業の得意・不得意が、そのまま会社の成果差になる
「営業は個人の仕事」という考え方では、担当者が優秀なほど情報がその人へ集中します。短期的には速く見えても、人数が増えたり、扱う商品が増えたりすると限界が来ます。
同社は事業承継をきっかけに、社内情報のデータ化が遅れていることを認識し、仕事の進め方を見直しました。
施策:顧客情報を集めるだけでなく、営業の流れを作り直した
ステップ1:顧客・案件・営業活動を一つにまとめる
最初に行ったのは、顧客名簿だけを電子化することではありません。
顧客情報、案件情報、営業活動、社内の知識を一つの場所へ集めました。誰が見ても「この顧客に何を提案したか」「次は何を確認するか」が分かる状態を作ります。
難しい言葉では、顧客管理や営業支援の仕組みと呼ばれます。現場の言葉にすると、営業の記録を会社全体で探せるようにしたということです。
ステップ2:日報を報告書ではなく、次の提案材料へ変える
日報は、上司へ提出して終わるものになりがちです。同社は日報と案件の記録を共有し、他部署の知識を次の提案へ使えるようにしました。
例えば、複合機を提案する営業担当が、別部署のセキュリティ対策やオフィス移転の知識を組み合わせられます。担当者一人が全商品に詳しくなる必要はありません。社内の詳しい人と情報をつなぎ、チームで顧客へ対応します。
ステップ3:訪問だけに頼らない顧客接点を作る
同社は2019年に、Webからの問い合わせ、オンライン商談、説明会などを担う部門を立ち上げました。
すべての商談を訪問で始めるのではなく、顧客が関心を持った段階に合わせて情報を届けます。訪問が必要な案件と、オンラインで進められる案件を分けることで、移動時間を減らしました。
ステップ4:繰り返し作業を自動で流す
顧客情報や案件情報が同じ場所に集まると、入力した内容を別の表へ書き直す必要が減ります。定型の集計、担当者への通知、次の作業の登録なども、自動で動くようにできます。
ここでも大切なのは、先に仕事の流れを整理することです。古い手順をそのまま自動化すると、不要な確認や二重入力まで残ります。
ステップ5:自社で得た経験を、新しい支援事業へ広げる
同社は、自社で使った仕組みと改善経験を地域企業向けの支援事業へ広げました。
事務用品を売る会社から、顧客の経営課題を一緒に整理する会社へ。業務改善は、社内の時間削減だけでなく、新しい売上の柱にもつながりました。
成果:人員と移動を減らしながら、売上総利益を伸ばした
経済産業省の「DXセレクション2026」選定企業レポートでは、次の成果が示されています。
| 項目 | Before | After |
|---|---|---|
| 関係部署の人員 | 7名 | 5名 |
| 移動に使う時間 | 訪問中心で発生 | 年間約2,000時間削減 |
| チーム営業に関する売上総利益 | 20万円 | 400万円 |
| 関連サービスを含む売上総利益 | 4億7,900万円 | 5億8,900万円 |
| 営業情報 | 紙の日報・担当者の記憶に分散 | 顧客・案件・活動・知識を一つに集約 |
関係部署の人員を7名から5名へ減らした点だけを見ると、人数削減の事例に見えるかもしれません。しかし、重要なのは、同時に売上総利益が伸びていることです。
チーム営業に関する売上総利益は20万円から400万円へ。単純計算で20倍です。関連サービスを含む売上総利益も1億1,000万円増えています。
つまり、同じ仕事を少ない人数で回しただけではありません。移動や転記に使っていた時間を減らし、顧客への提案や新しい支援事業へ人の時間を振り向けました。
なぜ効果が出たか:ツールより先に「個人営業」を見直した
この事例のポイントは、顧客管理の仕組みを入れたことだけではありません。
効果が出た理由は、次の4点です。
- 紙の日報を電子化するだけでなく、顧客・案件・知識を一緒にした
- 営業担当一人で抱えず、他部署の知識を使うチーム営業へ変えた
- 訪問、オンライン商談、Web発信を顧客の段階に合わせて分けた
- 自社の改善経験を、顧客向けの支援サービスへ育てた
営業管理の仕組みを導入しても、入力だけ増えて定着しない会社があります。現場から見ると、「会社のために報告する作業」が一つ増えただけだからです。
一方、入力した情報が次の提案に使われ、他部署から助言が届き、会議や移動が減れば、現場にも利点があります。使う人が楽になる流れを作ったことが、定着につながりました。
他の業種でも応用できる
担当者ごとに顧客情報が分かれている会社なら、同じ考え方を使えます。
- 建設業:顧客、工事案件、見積、写真、協力会社の情報を結ぶ
- 製造業:問い合わせ、試作、見積、品質対応の履歴を共有する
- 士業・コンサル業:相談内容、提出物、期限、過去の回答例をまとめる
- 介護・福祉:利用者対応、家族連絡、申し送り、請求予定をつなぐ
- 小売・サービス業:問い合わせ、購入履歴、予約、次回提案を共有する
最初から全社の情報を移す必要はありません。まず一つの営業チーム、一つの商品群、一つの顧客層に絞り、記録項目をそろえる方が安全です。
まとめ:営業情報は、担当者の所有物ではなく会社の資産
従業員47名の商社が変えたのは、紙を画面に置き換えることではありませんでした。
顧客情報と営業ノウハウを担当者の中から会社の共有資産へ移し、個人営業をチーム営業へ変えた。その結果、関係部署は7名から5名へ、移動は年間約2,000時間削減され、売上総利益も伸びました。
「担当者がいないと案件が分からない」「営業会議が進捗確認だけで終わる」という状況があれば、まず情報の置き場所と記録項目を整理する価値があります。
気になる業務があれば、お気軽にお声がけください。弊社では、顧客情報や案件情報を一つにまとめ、現場で無理なく使い続けられる仕組みづくりを支援しています。