精密加工・製造業 × 現場改善・管理部門 × 金沢市の岡田研磨株式会社(従業員数は参照した公開記事に記載なし)の事例
製造現場でAIを使うというと、最初から高度な予測や専用システムを想像しがちです。
岡田研磨株式会社の公開事例が示す順番は、もっと地道でした。
紙を探す。
内線電話へ走る。
終業後に記録をまとめる。
こうした毎日の小さな負担を先に減らし、その後で社内アプリを自社で育てています。
公開記事によると、同社は月400〜500時間の作業と、月約6,000枚の紙を削減しました。顧客向け価格改定資料の作成時間は90%短縮。さらに、現場の手順をためる仕組みには1年弱で290件が集まりました。
大切なのは、数字だけではありません。
減らした作業の先に、現場で生まれる情報を「会社の記憶」として残す仕組みを置いたことです。
課題:資料探しに1〜2時間、情報は紙と人の頭の中
公開記事では、2020年当時の現場について、図面や検査記録が紙中心だったと説明されています。
必要な資料を探すだけで1〜2時間かかることもありました。
機械のそばで確認したい情報があっても、共有の場所へ戻る。内線電話へ走る。紙の束から該当資料を探す。
一つひとつは数分でも、全員分を積み上げると大きな負担です。
また、現場の工夫は担当者の頭の中に残りやすく、次の人へ渡すには口頭説明が必要でした。経験者が知っている段取りや注意点が、検索できる形になっていなかったのです。
ここで、いきなりAI検索を入れても機能しません。
紙のまま、書き方も保存場所もばらばらなら、AIが参照できる材料がありません。まず、日常の仕事を止めずに情報がたまる入口を作る必要があります。
なお、参照した公開記事には従業員数の記載がありません。本記事では規模を推測せず、原本未記載として扱います。
施策:現場の負担を減らしてから、社内アプリへ広げる
ステップ1:タブレットとチャットで、紙探しと移動を減らす
最初の一歩は、タブレットとSlackの導入でした。
機械を止めて内線電話へ移動する代わりに、その場で情報を確認し、連絡できるようにします。
これは単に紙を画面へ置き換える話ではありません。
現場が「使うと楽になる」と感じられる入口を先に作ることです。
入力項目を増やしすぎず、誰が、どの場面で、何を確認するかを絞る。紙と画面の二重作業が長く残らないよう、切り替える対象を一つずつ決める。この順番が定着につながります。
ステップ2:生産・品質・勤怠の情報を、同じ土台へ集める
次に、プログラムを書かずに作れるツールや生成AIを使い、生産実績、設備稼働、不良情報、勤怠などを扱う社内アプリへ広げました。
公開記事では、Claude Codeなども活用したと説明されています。
重要なのは、アプリの数ではありません。
同社は、サービスを無計画に増やして情報が分かれることを避け、生産・品質・労務の情報を同じ土台へ蓄積する考え方を重視しています。
別々のサービスに情報をためると、後で横断して確認するための転記が増えます。AIへ読ませる時も、どれが最新か分からなくなります。
「今すぐ便利か」だけでなく、「3年後に同じ情報を使えるか」まで考えて置き場所を決める。これが会社の記憶づくりです。
ステップ3:手順書を作る人が報われる仕組みにする
現場の知識は、入力画面を作っただけでは集まりません。
岡田研磨では、タブレットで手順書を作れる「ナレッジボード」に、AIによる採点と改善提案を組み合わせました。点数に応じた報奨金も設け、1年弱で290件の手順書が集まったとされています。
ここでAIが担うのは、手順書の読みやすさや不足候補を示す支援です。
内容が正しいか、安全に関わる条件が抜けていないかは、現場の責任者が確認します。
書く人、確認する人、更新する人を決める。古い手順書には見直し日を付ける。現場の提案が採用されたことを見えるようにする。
知識共有を善意だけに頼らない設計です。
成果:作業削減と、将来使える情報の蓄積
公開記事で確認できる主な成果は次の通りです。
| 項目 | Before | After |
|---|---|---|
| 資料探し | 1〜2時間かかる場合あり | タブレットと社内アプリで確認しやすい状態へ |
| 月間作業 | 紙・転記・確認が分散 | 月400〜500時間を削減 |
| 紙の使用 | 図面・検査記録など紙中心 | 月約6,000枚を削減 |
| 価格改定資料 | 従来の作成工程 | 作成時間を90%短縮 |
| 手順書 | 暗黙知が人に残る | 1年弱で290件を蓄積 |
これらは同社の公開事例に基づく数値であり、別の会社で同じ結果を保証するものではありません。
注目したいのは、削減した時間を単なる人員削減へ置き換えていない点です。
現場の知識を残す。
不良情報を次の改善へ使う。
価格改定の根拠を早く整える。
日常業務からたまる情報が、次の判断材料になります。
なぜ効果が出たか:AIより先に、情報がたまる流れを作った
この事例から学べる理由は三つあります。
一つ目は、現場の困りごとから始めたことです。
「AIを使う」ではなく、「紙を探す時間を減らす」「機械から離れず確認する」と目的を具体化しました。
二つ目は、情報の置き場所を分断しなかったことです。
生産、品質、勤怠を同じ土台へ寄せることで、後から検索や分析へ使いやすくしています。
三つ目は、知識を出す人にメリットを作ったことです。
手順書を作る行為を評価し、改善提案を返し、報奨へつなげています。AIは知識を勝手に生むのではなく、人が残した知識を整える役です。
他の中小製造業へ横展開するなら
同じ規模の仕組みを最初から作る必要はありません。
まず、資料探しが多い一業務を選びます。
たとえば、設備点検、検査記録、不具合対応、見積根拠のどれか一つです。
直近1カ月で探した資料、探した時間、見つからなかった件数を記録する。入力画面を一つ作り、現場で2週間試す。検索された情報と使われなかった情報を見直す。
その後で、隣の業務へ広げます。
AIへ読ませるのは、情報の正しさ、更新担当、閲覧できる人を決めてからです。
AIの性能より、毎日の仕事の中で正しい情報がたまるかどうか。そこが将来の差になります。
導入後に毎月確認したいこと
仕組みは、作った日よりも使い続ける期間の方が長くなります。
毎月、検索された資料、見つからなかった資料、更新されていない手順、権限エラーを確認します。利用回数だけでなく、現場が何分探さずに済んだか、古い情報を何件直したかも見ます。
手順書は、件数が増えるだけでは不十分です。同じ内容の重複、担当者しか分からない言葉、安全上の注意漏れを責任者が確認します。設備や材料が変わった時は、関連する手順をまとめて見直します。
AIの回答に元資料へのリンクを付け、現場が根拠を確かめられるようにすることも重要です。答えが見つからない時は、無理に補わず担当者へ戻します。
気になる業務があれば、お気軽にお声がけください。
弊社では、中小企業のAI活用・業務システム開発を、現場の情報整理から伴走しています。