金属加工業 × 総務・労務 × 従業員18名
※本記事は事例データをもとに、業種・規模・現場の会話を編集部で再構成したものです。数値は事例記録に基づきます。
課題:職人・事務・営業で手当の条件が違い、毎月の確認が終わらない
関東で金属加工を行う従業員18名の会社では、総務担当者1名が勤怠確認から給与計算までを担っていました。
工場で働く職人、事務、営業では勤務時間も手当も異なります。残業、休日出勤、技能手当、営業手当などを表計算へ転記し、条件ごとに計算する必要がありました。
現場の状況を再構成すると、総務担当者は毎月こう感じていたはずです。
「今月のこの手当は、先月と同じ条件でよかったでしょうか」
「勤怠の修正が入ると、どの計算をやり直したか分からなくなります」
給与計算にかかる時間は月25時間。計算ミスは平均月3件あり、従業員からの問い合わせも月18件に上っていました。
給与は、速さだけでなく正確さが欠かせない業務です。だからこそ担当者は慎重になり、同じ表を何度も見直していました。確認を増やすほど時間が延び、疲労で見落としが起きやすくなる悪循環です。
さらに、法令や会社の手当ルールが変わるたびに、計算表と説明資料を更新する必要がありました。担当者の頭の中にはルールがありましたが、別の人が同じ手順で計算できる形にはなっていませんでした。
施策:AIに給与を決めさせず、確認に必要な材料をそろえた
この会社で行ったのは、給与判断の丸投げではありません。
勤怠管理の情報、会社の手当ルール、確認履歴を一つの流れにまとめ、AIは「見落とし候補を探す」「説明文の下書きを作る」役割に限定しました。最終計算と支給判断は、必ず総務担当者が確認します。
ステップ1:手当の条件を一枚の確認表へ集約
最初に、職種別の勤務形態、手当の名称、計算条件、承認者を整理しました。
たとえば「休日出勤」という言葉だけでは不十分です。申請者、対象日、勤務時間、代休の有無、承認状態までそろって初めて計算できます。
「条件が曖昧なままAIへ聞いても、正しい答えは返せません」
この前提を共有し、例外が起きた時は自動計算せず、確認待ち一覧へ移すようにしました。
ステップ2:勤怠情報をつなぎ、転記を減らす
次に、勤怠管理の情報を給与確認用の一覧へつなげました。担当者が同じ数字を複数の表へ入力する作業を減らし、元の勤怠が修正された場合は、どこが変わったか分かるようにしました。
ここで大切なのは、全部を一度に自動化しないことです。基本給や固定手当のように条件が明確な部分から始め、例外の多い項目は人の確認を残しました。
ステップ3:AIは矛盾の候補と説明の下書きを担当
AIには、前月と比べて大きく変わった項目、申請と勤怠が合わない可能性、確認が必要な空欄を拾わせました。
また、従業員から問い合わせが来た時に、どの規程と勤怠を確認すべきかを整理し、回答文の下書きを作るようにしました。
ただし、AIの下書きをそのまま送信しません。給与額、個人情報、法令解釈に関わるため、事実と社内規程を担当者が照合してから説明します。
ステップ4:2回分を並行計算し、差が出る条件を記録
新しい流れへ切り替える前に、従来の計算と新しい計算を並行して行いました。
差が出た項目は「AIが間違えた」で終わらせず、入力不足、ルールの曖昧さ、承認漏れのどれかに分類します。この記録が、翌月以降の確認表になります。
「速くするより、同じ条件なら同じ結果になる状態を先に作ろう」
この判断が、仕組みを定着させました。
成果:給与計算は18時間短縮、問い合わせも16件減少
事例記録では、次の変化が確認されています。
| 項目 | Before | After | 変化 |
|---|---|---|---|
| 給与計算時間 | 月25時間 | 月7時間 | 18時間削減(72%) |
| 計算ミス | 月3件 | 0件 | 3件削減 |
| 従業員問い合わせ | 月18件 | 月2件 | 16件削減(約89%) |
| 有給管理 | 手作業中心 | 自動で一覧化 | 確認漏れを減らす |
この数値は当該事例の結果であり、同じ効果を保証するものではありません。それでも、成果の理由は明確です。
担当者が計算式を速く打てるようになったのではなく、計算前の情報と例外処理が整ったからです。
「問い合わせが減ったことで、給与日が怖くなくなりました」
これは再構成した声ですが、時間短縮以上の変化を表しています。従業員側も、何を確認すればよいか分かるようになり、総務への信頼を取り戻しやすくなりました。
なぜ効果が出たか:AIより先に会社のルールを言葉にした
第一に、担当者しか知らなかった手当条件を確認表にしました。
第二に、自動で処理できる項目と、人が判断する例外を分けました。
第三に、AIの役割を異常候補の抽出と説明の下書きへ限定しました。給与の決定、法令の最終判断、従業員への送信は人が担います。
この分担により、便利さと安全性を両立できました。
同じ考え方は、製造業以外にも応用できます。
- 建設業:現場手当や日当の確認
- 介護・福祉:夜勤、資格、処遇改善に関する確認
- 小売業:店舗別シフトと繁忙期手当の確認
- 専門サービス業:案件別の稼働と手当の確認
最初から給与計算全体を変える必要はありません。まずは、毎月もっとも確認に時間がかかる一項目から始める方が安全です。
導入前に確認したい5項目
この事例を自社へ応用する場合は、ツールを選ぶ前に次の5項目を確認します。
1. 元になる勤怠はどれか:複数の表があるなら、正式な数字を一つ決めます。
2. 手当の根拠はどこか:就業規則、雇用契約、申請書のどれを参照するかを明確にします。
3. 例外を誰が判断するか:AIや総務担当者だけで決めず、承認者を置きます。
4. 変更履歴を残せるか:誰が、いつ、何を直したかを追えるようにします。
5. 元へ戻せるか:切り替え前の計算結果を保管し、差が出た時に照合できるようにします。
特に大切なのは、最初の1〜2回を並行運用にすることです。新しい仕組みの結果だけを信じず、従来の計算と照合します。
また、計算ミスが0件になった後も確認をなくしません。会社のルール変更、新しい手当、勤務形態の追加があれば、確認表と指示を更新します。
仕組みは完成品ではなく、会社のルールと一緒に手入れするものです。
毎月の小さな変更も記録し、次の担当者へ引き継げる状態を保ちます。
気になる業務があれば、お気軽にお声がけください。
弊社では中小企業のAI活用・システム開発の伴走支援を行っています。