製造業・電子部品製造業・事務員・従業員12名の事例
課題:紙の依頼メモと口頭確認で、事務員の手が止まっていた
兵庫県加古川市にある従業員12名の電子部品製造業では、事務員の方が受注後の確認、出荷予定の転記、納品書の下書き、現場への連絡をほぼ一人で担っていました。
現場からは紙のメモ、営業からは電話、取引先からはメール。情報の入り口がばらばらです。
事務員の方は「どれが最新版なのか、毎回確認しないと怖いんです」と話していました。
特に時間がかかっていたのは、受注内容をスプレッドシートへ写し、現場向けの確認表に直し、出荷予定を別シートへ転記する作業です。1件あたり平均25分。月に約90件あり、月37時間ほどが転記と確認に使われていました。
ミスが起きるのは、忙しい日だけではありません。むしろ、ちょっとした修正が入った時です。
「数量が10個から12個に変わった」「納品日が1日ずれた」「型番の末尾が違った」。この小さな変更が紙メモと表の間でずれ、出荷前日に慌てて確認することがありました。
施策:入力する画面を一つにして、表が自動で整う流れを作った
今回行ったのは、大きな専用システムの導入ではありません。
まず、営業と現場が同じ形式で入力できる画面を作りました。Googleフォームのような入力ページです。専門的にはフォームと言いますが、現場には「依頼メモをスマホで入れる画面」と説明しました。
次に、その入力内容がスプレッドシートへ自動で並ぶようにしました。GASという仕組みも使っていますが、現場向けには「表を自動で整える仕組み」と説明しています。
最後に、AIを使って備考欄の文章を確認し、型番や納品日などの抜け漏れを見つける補助を入れました。AIが判断を確定するのではなく、確認が必要そうな行に印をつけるだけです。
ステップ1: 入力項目を最小限に絞る
最初から細かくしすぎると、誰も使いません。
入力項目は、取引先名、型番、数量、希望納期、変更有無、備考の6つに絞りました。後から必要になる項目は、事務員が確認する欄に分けました。
営業担当からは「これなら電話の後にその場で入れられます」と反応がありました。
ステップ2: 事務員の確認表を自動で作る
入力された内容は、そのまま現場に渡せる形ではありません。
そこで、事務員が毎朝見る確認表を別に作りました。納期が近い順に並び、変更が入ったものは色がつき、数量の変更履歴も見えるようにしました。
これにより、事務員は全件を探すのではなく、確認が必要なものから見ればよくなりました。
ステップ3: AIは最終判断ではなく、抜け漏れ探しに使う
AIには、備考欄の文章から「確認した方がよさそうな表現」を拾わせました。
たとえば「できれば早め」「前回と同じ」「いつもの仕様」といった曖昧な言葉です。
AIが「ここは人に確認」と印をつけ、事務員が営業や現場に確認します。AIに勝手に納期や数量を決めさせないのがポイントです。
成果:転記作業が月37時間から16時間へ減った
導入後2か月で、事務員の確認作業は大きく変わりました。
| 項目 | Before | After | 変化 |
|---|---|---|---|
| 受注1件あたりの転記・確認 | 25分 | 11分 | 56%削減 |
| 月間の転記・確認時間 | 約37時間 | 約16時間 | 約21時間削減 |
| 出荷前日の確認戻り | 月12件 | 月3件 | 75%削減 |
| 入力漏れの再確認 | 月18件 | 月5件 | 72%削減 |
事務員の方は「探す時間が減っただけで、こんなに気持ちが楽になるんですね」と話していました。
現場側にも副次効果がありました。紙メモを探す時間が減り、朝礼で確認する内容が絞られました。営業担当も、電話で受けた変更をすぐ入力するようになり、後から思い出して連絡する回数が減りました。
なぜ効果が出たか:AIより先に、情報の入り口をそろえたから
今回のポイントは、AIを高度に使ったことではありません。
最初に効いたのは、情報の入り口を一つにしたことです。
紙、電話、メール、口頭が混ざったままAIを入れても、うまくいきません。AIは便利ですが、ばらばらの情報を正しく判断し続ける道具ではありません。
まず入力する画面を作る。次に表が自動で整うようにする。最後にAIで抜け漏れを見つける。
この順番にしたことで、現場が無理なく使えました。
他の製造業でも応用できる
この形は、電子部品製造業に限りません。
部品加工、食品製造、印刷、梱包、修理業でも、似た課題があります。
「紙の依頼メモが多い」「変更連絡が口頭で残らない」「事務員が何度も確認している」。この3つがある会社では、同じような仕組みで効果が出やすいです。
大切なのは、いきなり大きなシステムを作らないことです。まず、今のメモを入力画面に置き換える。そこから始めるだけでも、確認時間はかなり減らせます。
導入時に気をつけたこと:現場の入力負担を増やさない
この事例で一番注意したのは、現場に新しい作業を押しつけないことです。
便利な仕組みを作っても、入力が面倒なら使われません。特に製造業では、作業の合間にスマホやPCを開く時間が限られます。そこで、入力画面は1分以内、できれば30秒で終わる量にしました。
また、最初の2週間は紙メモも残しました。いきなり紙を禁止すると、現場が不安になります。紙と入力画面を併用し、どちらの方が確認しやすいかを見てもらいました。
結果として、現場側から「紙だけだと後で探すのが大変」「入力しておいた方が事務さんに伝わる」という声が出ました。仕組みは押しつけるより、使った方が楽だと感じてもらう方が定着します。
AIの使い方も同じです。AIに納期や数量を決めさせるのではなく、人間が確認すべき箇所を見つける補助にしました。この線引きがあったため、現場も安心して使えました。
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