従業員8名の居宅介護支援/記録作成を2.5時間から45分に減らした話
医療・介護・福祉業 × 居宅介護支援の施設長・ケアマネジャー × 従業員8名の事例

訪問後の記録、家族からの連絡、サービス事業者との調整、ケアプランの更新。

少人数の居宅介護支援事業所では、一人の担当者が複数の利用者と関係者を支えます。この事業所では、日々の記録作成に2.5時間、利用者情報を探す作業に一件10分、ケアプラン作成に10時間かかっていました。

そこで、訪問時に必要項目を入力し、過去の記録を利用者ごとに確認できる仕組みを作りました。AIは記録の要約とケアプラン文章の下書きだけを担当し、支援方針はケアマネジャーが判断します。

導入後、記録作成は2.5時間から45分、情報検索は10分から3分、ケアプラン作成は10時間から5時間へ短縮しました。

課題:記録を書く時間が、利用者へ向き合う時間を圧迫していた

導入前の記録は、紙、個別ファイル、表計算に分かれていました。

訪問直後は次の予定があるため、短いメモだけを残し、事務所へ戻ってから正式な文章へ書き直す。家族から連絡があれば別の紙へ追加し、サービス事業者との調整結果も後で転記する。

一度集めた情報を、用途ごとに書き直す作業が多くありました。

施設長が感じていた課題は、「記録を減らしたい」ではありません。記録の質を保ちながら、まとめ直す時間を減らしたいということでした。

利用者の状況は一人ひとり違います。入力項目を固定しすぎれば大事な変化が抜けます。自由記入だけにすれば、担当者ごとに表現が変わり、後から探しにくい。

この二つを両立する必要がありました。

施策:事実、判断、文章を分けた

ステップ1:訪問後に必ず残す事実を決めた

まず、既存の記録から共通する項目を選びました。

訪問日時、本人の様子、家族からの連絡、サービス利用状況、次回までの確認事項。数値や選択肢で残せる事実と、文章で残す個別の様子を分けます。

この時、入力項目は制度上必要な記録と現場で本当に使う内容に絞りました。分析に使えそうだからという理由だけで項目を増やしません。

ステップ2:利用者別の経過を一画面で見られるようにした

入力された記録は、利用者ごと、日付ごとに並びます。

家族から問い合わせがあった時、複数のファイルを開く必要がありません。直近の訪問、未完了の確認、次回予定を同じ画面で確認できます。

ただし、個人情報を扱うため、職員ごとに担当範囲を設定しました。共有リンクで外部へ公開せず、端末、アカウント、退職時の権限削除も運用に含めています。

ステップ3:AIは整理と下書きに限定した

記録が同じ形でたまると、AIで直近の変化を整理できます。

AIへ任せたのは、重複する文章をまとめること、時系列を読みやすくすること、ケアプラン文章の下書きを作ることです。

本人の意向、課題、目標、支援内容を決めるのはケアマネジャーです。AIが提案した内容を採用するかどうかも、人が元記録と本人の状況を見て判断します。

この境界は、最初の研修で全員へ共有しました。

ステップ4:修正理由を残した

AIの下書きを人が直した時は、名前の誤り、時系列の誤り、表現の硬さ、個別性不足など、理由を短く残します。

同じ誤りが続けば、指示文や入力項目を見直します。

便利かどうかを感想だけで判断せず、修正回数と確認時間を測るためです。

導入の進め方:過去10件で試し、現行案件へ広げた

利用者情報を扱うため、最初から実運用の全件をAIへ渡しませんでした。

個人が特定される情報を除いた過去記録10件を使い、時系列の並び、要約の抜け、ケアプラン文章の個別性を確認します。正解か不正解かだけでなく、どこを人が直したかを記録しました。

確認するのは、本人と家族の意向を取り違えていないか、日付やサービス名が一致するか、事実と推測が分かれているか、注意事項が抜けていないか、別の利用者情報が混ざっていないかです。

10件で大きな問題がないことを確認した後、担当者二人の現行案件へ限定して広げました。AIの案は別欄に表示し、元記録を開いたまま比較できるようにします。

職員からは、「下書きがあると楽だが、同じ言い回しが続くと本人らしさが消える」という懸念が出ました。

そこで、文章の短縮だけを成果にせず、本人固有の目標や生活背景が残っているかも確認項目へ加えました。速いだけで、誰にでも当てはまる計画になっては意味がありません。

運用開始後も、月に一度、無作為に5件を施設長が再確認します。修正が増えた時はモデルを疑う前に、入力項目、元記録の不足、職員間の基準差を見直します。

通信障害やサービス停止時は、従来の記録へ戻せる手順も残しました。AIを使えない日でも業務が止まらないことが、福祉現場での導入条件です。

成果:記録時間を減らし、確認の流れをそろえた

項目BeforeAfter変化
記録作成2.5時間45分1時間45分短縮
利用者情報の検索10分3分7分短縮
ケアプラン作成10時間5時間5時間短縮
利用者満足度85%95%10ポイント向上
職員満足度65%88%23ポイント向上

時短によって生まれた時間は、単に件数を増やすために使ったわけではありません。

本人や家族との対話、サービス事業者との調整、支援内容の見直しへ戻しました。

記録の見た目も担当者ごとの差が小さくなり、施設長が確認する順番をそろえられました。

一方で、満足度の変化には複数の要因があります。仕組みだけの効果と断定せず、面談や職員配置など他の改善と合わせて継続確認しています。

公開事例でも、ケアプランの下書き支援が進んでいる

2026年7月、オムロンは地域包括支援センター向けのケアマネジメント専用AI「With.Ai」を発表しました。

公式発表では、プロトタイプ検証でケアプラン作成が最短10分となり、業務時間を80%以上削減したとされています。2026年度中に「ハレクルWith」へ搭載予定です。

この数値を、そのまま別の事業所へ当てはめることはできません。対象業務、入力データ、職員数、確認工程が違うためです。

ただし、共通する考え方があります。

AIが専門職の判断を置き換えるのではなく、課題整理、支援内容の候補、文章の下書きを補助すること。人は本人の状況と意向を踏まえ、最終的な支援を決めることです。

なぜ効果が出たのか

入力から下書きまでを一つの流れにした

記録だけを速くしても、ケアプラン作成時に別の場所から集め直せば効果は小さくなります。

訪問記録、経過確認、下書きをつなげたことで、同じ情報の転記を減らしました。

AIを使わない判断を決めた

医療・介護では、効率より優先すべき境界があります。

緊急性の判断、本人の同意、支援方針、サービス選択は人が担います。AIは見落としを減らす補助であり、責任者ではありません。

小さな事業所に合う項目数へ絞った

従業員8名の事業所へ、大規模組織向けの複雑な入力を持ち込むと続きません。

毎日使う項目を優先し、月に一度しか使わない情報は別画面へ分けました。

他の介護・福祉事業でも応用できる

  • 訪問介護:訪問記録と家族連絡の整理
  • 通所介護:送迎、活動、体調の申し送り
  • 地域包括支援センター:相談記録とケアプランの下書き
  • 障害福祉:個別支援記録とモニタリング準備

どの業態でも、最初は一種類の記録、10件程度の過去データから試します。短縮時間だけでなく、記載漏れ、修正回数、本人の個別性が保たれたかを確認します。

気になる業務があれば、お気軽にお声がけください。弊社では中小企業のAI活用・システム開発の伴走支援を行っています。

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