業界:自動車教習所|対象業務:教習記録・顧客連絡・社内連絡|規模:従業員65名
専任のITエンジニアがいない会社でも、現場に合う仕組みを自分たちで育てられるのでしょうか。
IPAの「DX SQUARE」に掲載された南福岡自動車学校の事例は、その問いに一つの答えを示しています。同社は、約30年間使ってきた仕組みの刷新で一度つまずきました。その後、少人数の試行へ戻り、現場の職員が使う小さな業務アプリを積み上げています。
IPA掲載インタビューによると、社内の電話連絡は約90%減り、離職率は12%から3%へ低下しました。業務アプリは100を超えています。
ただし、離職率の改善を仕組みだけの効果と断定することはできません。この記事では、数値を成功の宣伝としてではなく、同社がどのように失敗から立て直したかを読み解く材料として扱います。
Before/After
| 項目 | Before | After |
|---|---|---|
| システム開発 | 外部へ大きく依頼し、現場とのずれが拡大 | 5〜6人の小さな利用から開始 |
| 顧客・教習情報 | 複数の場所に分かれ、確認や連絡に電話が必要 | 一つの入口から記録・確認・連絡 |
| 期限管理 | 職員が対象者を探して個別に追いかける | 期限の2日前から自動で知らせる |
| 改善の担い手 | 専門会社へ要望を伝える | 現場経験者が改善と支援を担う |
| デジタル教育 | ITが得意な人だけに偏りやすい | タイピングなど基礎から段階的に学ぶ |
最初の刷新は、3年かけても現場に合わなかった
同社が使っていた仕組みは約30年前のもの。更新の見積もりは10回以上重なり、別の仕組みへ置き換える案は1,000万円を超えたと、IPAのインタビューで説明されています。
そこで外部企業と新しい仕組みを作りましたが、3年かけても現場に合わず、損失は数百万円規模になりました。
ここで重要なのは、「外注が悪い」「内製なら必ず成功する」という話ではないことです。失敗の中心は、完成まで大きく作り込み、実際に使う職員から早く反応を受け取れなかった点にあります。
業務の例外が多い現場ほど、説明書だけでは本当の使い方を伝えきれません。教習の変更、顧客への案内、期限切れへの対応など、日々の判断を作りながら確認する必要があります。
立て直しは5〜6人から始まった
再出発では、最初から65人全員へ広げませんでした。まず5〜6人で使い、準備に3〜4か月をかけた後、全体への展開は約1.5か月。最初の段階で、およそ10個の業務アプリを移したとされています。
少人数で始める利点は、使い方の質問を早く拾えることです。
- どの画面で迷うか
- 入力に必要な項目は多すぎないか
- 電話や紙へ戻ってしまう場面はどこか
- 間違えた時に誰が直せるか
こうした小さな詰まりを直してから利用者を増やせば、「導入したのに使われない」状態を避けやすくなります。
管理する仕組みから、職員を支える仕組みへ
同社の変化で特に参考になるのは、デジタル化の目的を「職員を管理すること」から「職員と顧客を支えること」へ置き直した点です。
たとえば、期限が近い顧客を職員が毎回探し、連絡する業務。新しい仕組みでは期限の2日前から知らせ、追いかける作業をほぼなくしたと説明されています。
また、パソコンの前へ長く座れない職員でも、教習の合間の10分でスマートフォンから記録や確認ができます。デジタル化が新しい負担になるのではなく、現場の動きに合う入口へ変わっています。
同社の担当者は、連携した仕組みを十分に使えているのは体感で約15%とも述べています。100を超えるアプリがあるから完成、ではありません。まだ使い切れていないことも隠さず、改善を続ける姿勢に価値があります。
中小企業がまねるなら、この4段階
1. 電話・転記・追いかけを数える
まず、毎週繰り返す連絡や二重入力を書き出します。「忙しい」ではなく、電話の回数、探す時間、差し戻し件数まで数えます。
2. 一つの業務だけ選ぶ
顧客情報を全部変えるのではなく、期限通知や日報など、失敗しても元の方法へ戻せる業務を選びます。個人情報を扱う場合は、閲覧できる人と保存先を先に決めます。
3. 現場経験者を支援役にする
作る人と使う人を分断しません。現場の言葉が分かり、質問を受けられる人を担当に置きます。高度なIT研修より先に、入力、検索、共有といった基礎をそろえます。
4. 効果と不具合を同じ台帳へ残す
削減できた電話や時間だけでなく、入力漏れ、誤通知、職員の困りごとも記録します。問題が起きた時に止める方法と、紙や旧手順へ戻す条件も用意します。
利用を広げる前に、権限表を1枚作る
現場が自分で改善できることと、誰でもすべての情報を見られることは同じではありません。
少人数の試行中に、次の表を作ります。
| 操作 | 現場職員 | 支援担当 | 管理者 |
|---|---|---|---|
| 自分の記録を入力 | 可 | 可 | 可 |
| 顧客情報を閲覧 | 担当分のみ | 支援対象のみ | 必要範囲 |
| 入力項目を変更 | 不可 | 下書きまで | 承認して反映 |
| データを外部出力 | 不可 | 不可 | 理由を確認して実行 |
| 誤登録を修正 | 申請 | 内容確認 | 承認・記録 |
実際の権限は会社の業務と製品機能に合わせて決めます。担当変更や退職の当日に権限を止められるか、共有端末から前の利用者の情報が見えないかも確認します。
また、通知が届かなかった時の責任を利用者へ押し付けません。重要な期限は一覧でも確認できるようにし、仕組みが止まった時は誰が気付き、どの旧手順へ戻すかを決めます。
電話を減らすほど、例外時の連絡経路は意識して残す必要があります。
横展開できる業務
この考え方は、自動車学校に限りません。
- 学習塾:保護者連絡、面談記録、欠席後の案内
- 介護事業所:申し送り、期限管理、家族への連絡準備
- 設備保守:点検記録、写真共有、再訪問の通知
- 営業部門:商談後の記録、見積もり期限、担当者への通知
共通点は、「誰かが覚えて電話する」仕事を、現場が確認できる流れへ変えることです。
成功の中心はツールではなく、始め方
この事例から学べるのは、特定の製品を選べば同じ数字になるということではありません。
大きな失敗を隠さず、小さな利用へ戻したこと。現場の経験を持つ人が支援役になったこと。管理強化ではなく、働く人と顧客を助ける目的へ変えたこと。
これらが、専任エンジニアのいない会社でも続けられる条件です。
当社では、業務の棚卸しから小さな試作、権限設計、導入後の効果確認まで支援しています。自社ならどの業務から始められるか整理したい方は、お問い合わせページからご相談ください。
出典・参考資料
この記事の作成にあたり参照した公開情報です。リンク先の事実と、当社による整理・解説を区別してご確認いただけます。
- IPA DX SQUARE「創業73年、エンジニア0人。自動車学校が進めた『管理型から支援型』のDX」 dx.ipa.go.jp