従業員の提案数3倍増。AI活用で"アイデアが出ない"文化を変えた組織改革

1. 支援前の課題

従業員300名規模の製造企業で、数年前から導入している従業員提案制度が、ほとんど機能していない状況でした。

「アイデアが思い浮かばない」
「提案しても通らないから意味がない」

月間の提案数は全社で平均5〜6件程度に留まり、しかもその多くが小さな環境改善に関するものでした。事業改善や新規事業につながるような革新的なアイデアは皆無の状態が続いていました。

経営陣としては「現場の声をもっと事業に活かしたい」という想いがあったものの、従業員側は「どんなことを提案すればいいかわからない」「自分のアイデアなんて役に立たない」という意識が強く、組織全体のイノベーション創出力が低下していました。

従業員のアイデア創出を根本的に支援するため、AIを活用したアイデア発想支援システムを構築しました。

従業員が感じている小さな課題や気づきを入力すると、AIが多角的な質問を投げかけ、思考を深掘りしてアイデアを膨らませる支援を行います。「なぜそう思うのか」「他にはどんな方法があるか」といった対話を通じて、漠然とした問題意識を具体的な提案に発展させるシステムです。

社内外の改善事例データベースを構築し、現在の課題に類似した過去の成功事例や他社事例をAIが自動で提示。「参考になりそうな事例」を見ることで、発想の幅を広げる環境を提供しました。

提案内容を入力すると、AIが実現可能性、期待効果、必要リソースなどを客観的に評価し、改善ポイントを提案。従業員が「通りそうにない」と諦める前に、提案内容をブラッシュアップできる機能を提供しました。

他の従業員のアイデアを匿名で閲覧でき、「いいね」やコメントで相互にフィードバックし合える環境を構築。一人では思いつかないアイデアも、他者との組み合わせで新たな発想が生まれる仕組みを整備しました。

提案の量だけでなく質も大幅に向上し、年間約1,200万円のコスト削減効果を生む提案が複数採用されました。

特に印象的だったのは、従業員の意識変化です。

「自分にもアイデアが出せる」という自信が生まれ、日常業務の中でも改善点を積極的に見つけようとする姿勢が社内全体に広がりました。

「AIが一緒に考えてくれるから、アイデアが出やすくなった」「他の人の提案を見て、自分も頑張ろうと思った」「提案が通りやすくなって、やりがいを感じる」

といった前向きな声が従業員から挙がっています。

組織のイノベーション創出力を高めるためには、制度を整えるだけでは不十分です。従業員一人ひとりが「アイデアを出せる」と実感できる環境とツールの提供が重要です。

今回の事例では、AIによるアイデア発想支援により、「アイデアが出ない」という心理的障壁を取り除き、組織全体の創造性を大幅に向上させることができました。

現在は、顧客からの要望分析や市場トレンド情報なども提案支援に組み込み、より戦略的なアイデア創出に取り組んでいます。

この取り組みは、従業員の創造性と組織の革新力向上を目指す様々な企業にとって、参考になるモデルケースとなっています。