1. 支援前の課題
「最近、外国人観光客の予約が増えてきたのは嬉しいのですが、現場対応にバラつきがあって困っていまして……」
そう語ったのは、ある宿泊施設のフロントマネージャーでした。英語が堪能なスタッフが対応する日はスムーズに案内できても、そうでない日は説明が伝わらず、クレームにつながるケースもあったといいます。
また、館内設備のご案内や周辺観光地の説明もすべて口頭で行っており、スタッフごとに伝え方や所要時間に差がありました。「誰が対応するか」によってサービス品質が変わってしまう状況に、現場全体が不安を抱えていました。
2. 行った施策
接客の質を安定させるには、「言葉を揃え、仕組みにする」必要がある――。そうした気づきのもと、日々の問い合わせ内容や館内案内の情報をもとに、よくある質問100件分の回答テンプレートを整備しました。
情報整理の考え方は、日頃から取り入れていたAI活用研修の中で学んだフレームをもとに応用されています。
多言語対応の自動化
ChatGPTを活用し、英語・中国語などの文面を自動生成。翻訳精度とスピードの両方を満たす方法として、非常に有効でした。
LINEチャットボットの構築
この回答集をもとに、LINE上で自動応答が可能なチャットボットを構築・導入。館内Wi-Fi、朝食の時間、チェックアウト手続き、周辺の観光地情報など、日々よく寄せられる質問の多くを、LINE上で完結できるように設計しています。
観光案内の多言語化
GoogleスライドとQRコードを活用して多言語化。来館時にQRコードを読み込んでいただくことで、スマートフォンから各自で確認できる導線を整備しました。
この一連の取り組みは、業務改善の優先順位を整理する段階から丁寧に進められ、AI研修で培った「業務の見える化」と「情報構造化」の視点が随所に活かされています。
3. 施策後の成果
外国人観光客からの問い合わせのうち、約7割がLINE上で完結するようになりました。フロントスタッフの対応負担が大きく軽減され、接客時間にもゆとりが生まれています。
「説明だけで終わっていた接客」が、「おもてなし」や「体験共有」に時間を使える接客へと変化。
また、「誰が対応しても同じ案内ができる」環境が整ったことで、スタッフ間の不安や心理的なプレッシャーも軽減されました。
現場では、「もう口頭説明の紙を探さなくてよくなった」「英語に悩む必要もなくなった」「人に頼っていた業務がようやく"仕組み"として動き出した」
といった声が挙がっており、安心感が着実に広がっています。
4. まとめ
接客の品質をスタッフのスキルや経験に頼るのではなく、誰が・どんな場面でも"同じ価値"を提供できる状態をつくる。それこそが、今回の取り組みで最も大きな成果となりました。
AIを活用することは、特別な知識や大掛かりな準備を必要とするものではありません。まずは「今ある業務を整理する」ことからスタートし、それを日々の運用に自然と組み込んでいくことができます。
現在では、「フロントで迷ったらまずAIに相談する」という習慣が定着し、言語や人手の壁を越えて、接客が"自律的に回る"仕組みが根づいてきました。
この取り組みは、施設の規模にかかわらず、同じような課題を抱える現場にとって、再現性の高いモデルケースとなっています。